thought 
  アボサンinfo.いろいろ思索いろいろ雑感 
 阿保美代さんの作品に
 ◇ 「まんが専門誌 ぱふ 1983年8月号」での紹介に 
 この夏に、「まんが専門誌 ぱふ 1983年8月号」を手に入れた。 30年近く前の雑誌だ。この中で、「ファンタジィ&メルヘン」の小特集(全44ページ)が組まれており、 そこで阿保さんが紹介されていると知って、探していた。

 この雑誌は各号で漫画家の特集を組んでいたり、 インタビュー記事も充実していて、なかなか読み応えがある。 残念ながら阿保さんの特集号はないが、 この小特集の中で、阿保さんを最初に挙げ、4ページを割いて紹介している。 内容も良く、一読の価値がある。

 ただ、古い雑誌でもう入手も難しいと思うので、その一部をここで引用して紹介したい。 以下、その号の当該記事から。



 Fantasy & Marchen World  阿保美代の世界
 
 阿保さんの作品に触れた時、ふっと一瞬、心が素直になるのに気づきます。
 ──それがアボさんワールドの始まりの扉。

 そこにあるのは、いつの間にか忘れてきてしまった夢のかずかず。 そして、それらの暖かい記憶を振り返る内に、私達の心は静かに少しずつ少しずつ崩れるように 溶けはじめ、その充分ときほぐされた心の隙間に、阿保さんの優しく透き通ったメッセージはそっと 染み込んでくるのです。

 ──それが、阿保さんの作品における仕組み(メカニズム)


 
 阿保さんの作品について言葉で語ろうとするのは、ほんとうは随分と難しいことです。 一篇の秀れた詩のように凝縮されたその作品の美しさは、言葉にしようとしてしきれるものではないし、 幾千の言葉を重ねるより、何よりその掌篇を一つでも読んでもらえればそれで充分なのです。 それでも、これが少しでもそのとっかかりになればという願いを込めて。

(〜中略〜 ※以下、作風の概説)

 そこには、絵とともに流れるようなモノローグが在り、 二つが溶け合うように一篇のイメージが生まれてきます。それは高次のイメージファンタジィの世界。 そのぎりぎりまで削り込まれた美しい言の葉と、限りなく細く流れるような線が重なり合うことによって 阿保さんの世界は完成するのでしょう。

(〜中略〜)

 すでに10年間も描き続けているのに単行本の6冊分にしかならない凝縮された阿保さんの作品世界。 それはその深さ故に、いつまでも古びるということを知りません。(〜後略)

(引用:『まんが専門誌 ぱふ』 1983年8月号 p.100〜102より)



 このページ全体の7割は、阿保さんの漫画のカットで占められている。 その脇や合間に、上記のような文章が載せられている。 (絵のカットは、「霧の向こうに…」「緑のことば」「風の四銃士」、「冬の樹」「夏星への扉」「メロウ・フォーカス」から)

 この文章から、阿保さんの透き通った世界というものの特長が伝わってくる。 引用外で、絵筆やその美しさ、ポエジーについても触れられている。 これは、阿保さんについて書かれた優れた紹介文の一つだと思う。

 あの時代('83年)に、「古びることを知らない」と言い切っているのも凄い。本当にそうだ。 また、「阿保作品を言葉で語るのは、本当は随分と難しい」に始まる一段落は、 多くの方が同様に感じることではなかろうか。

*    *    *

 最後の4ページ目では、「ふるさとメルヘンの世界」と題して、その全般について語られている。 (絵のカットは、「楓ッコ」「花の木橋」「野いちご村の花絵師たち」から)


 ふるさとメルヘンの世界

(前略〜) 主に日本の民話風の世界を舞台にしており、青森県出身という阿保さんならではの津軽弁(?)を使って語られるそのストーリィは、 阿保さん流の"むかしばなし"の再構成ということが出来るかもしれません。

(〜中略〜)

 そこにあるのは、阿保さん自身の心の中のふるさと。 それでも、そこに不思議ななつかしさを感じてしまうのは何故なのでしょうか。 そうして私達は今度は自身の心の内に、幻のふるさとを捜し求めることになります。

(〜中略〜)

 古き時の縛めを今に解き放ったこの「ふるさとメルヘン」の世界は、誰しもが その心の奥に持ち続けているものだと思うのです。

(引用:『まんが専門誌 ぱふ』 1983年8月号 p.103より)



 「ふるさとメルヘン」が「昔話の阿保さん流の再構成」ということ。 さらにそれが、読み手の心の奥底にある何か大事なものを甦らせてくれること。 この書き手の方は、そうしたことまで、自然と掘り下げるように、率直に触れられている。

 ただ、この記事、残念なことに書いた方の署名がない。 他の漫画家の紹介では、担当者名が記されているのだけど。 ぱふ誌の編集スタッフ全体で書いたのだろうか。 その甲斐あってか、他の方の紹介文と比べると異質で、上等な感じがある。

 欲を言えば、阿保さんの特集号も組んでほしかったが、色々と難しかったのかな。

*    *    *

 ちなみに、この「ファンタジィ&メルヘン」の小特集は、 冒頭のインタビュー記事を除くと、作家毎の紹介では、 最初に阿保美代が4ページ、 次に、花郁悠紀子、坂田靖子、中山星香、めるへんめーかーの順で各2ページずつ。 続いて、水樹和佳、三岸せいこ、陸奥A子、ふくやまけいこの4方が、各1/2ページとなっている。(敬称略)

 その後、この系統のその他の少女漫画家20人程をざっと紹介。 つづいて「独自の世界を構築した作家達」と題し、 竹宮、萩尾、山岸、大島さんら巨匠によるファンタジー作品の紹介。 さらに少年漫画の中のファンタジー&メルヘンの紹介。 そして、ハロウィンや妖精、竜、魔法使いなどの漫画カット集などが続き、 最後にまとめとなる。

 ともあれ、今回この本が入手できて良かった。 今から27年前、その道の第一人者を称えるように、敬意をもって、阿保さんが紹介されていた。 そこでは作品のもつ深さにも触れられて、誠実に高い評価がなされていた。




2010-08-22
著者:ライラック
illustration ©MIYO Abo 1972-1999


△ コーナートップへ戻る △
inserted by FC2 system