thought 
  アボサンinfo.いろいろ思索復刊・選集の夢 
 復刊・選集の夢
 ◇ 特選集を作るなら (2) ふるさとメルヘン選集
 先のものに続いて、「アボサンのふるさとメルヘン」の他選集も、まとめてみた。

 300ページ迄、と制限が緩いため、数作抜いただけで、ほぼ同1〜2巻そのままに近い。 外したのは、1巻からは「あじさい峠」と最後の「雪のこねこ」以降の5作、 2巻からは「虹の町から」と「メロウ・フォーカス」以降の2作。

 「メロウ~」は良作だが、都会的すぎて「ふるさとメルヘン」的でないため。 また、「わすれんぼの天使」も、 どちらかと言えば西欧風のメルヘンで、『他選集(1)』の方が合うが、そのままこちらに入れた。

 ところで、この作業をしていて、つくづく私は、まともに阿保作品を読んでいなかった事が分かった。 同時に、阿保さんの作品は、ゆっくり味わうと、ちゃんと応えてくれる十分な深さがあることも知った。

 ともかく、以下が私の選んだ作品リストになる。

*    *    *

 ☆ 阿保美代・他選作品集 [2] (仮) 〜アボサンのふるさとメルヘン〜

タイトル頁数備考 (登場人物など)
 きつねのくりごはん8p婆さま、きつね、息子
 雪の里8p少年、女性、父親
 こぐまの春8pこぐま、少女
 小鬼のてぶくろ8p小鬼、少女と母
 たぬき雨8pたぬきの親子、猟師
 菖蒲沼8p沼に棲む河童、少年と父親、庄屋
 泣き虫たんざく8p兄と、妹マー、友達
 あかいくつ8p少年と、向かいの家のお姉ちゃん
 西の風のうた10p歌好きの少年、ばっちゃん、父母
 てのひら10月8p娘、母、くすり売りのおじさん
 月うさぎ8p少年ひろ、少女ふみ
 もみじ山のやまんば8pやまんば、幼い少年、里の村の衆
 古い波のうた8p青年の太一、おなごわらし
 花の木橋8pじっちゃん、林檎の木、孫の少年
 すぎのこ森の声8p炭焼きの夫婦
 春の笛8p少年、学校の先生と児童、うぐいすの精
 あめふりてんぐ8p天狗、庄屋と娘、雨蛇
 水ばしょうのらっぱ8p寺の和尚、小僧、少女
※以上「ふるさとメルヘン(1)」から146p、ここまで合計 146p
 かやぶき峠の鬼8p菩薩彫りの青年、鬼の女
 すずめのお宿8p少年ひろ、すずめのスー、学校や家族
 真夏に真綿の雪がふる日8p少女あや、妹、母
 田の草かかし8p吾作どん、かかし、すずめ
 10月のあまんじゃき8p少年つとむ、学校の先生・児童
 花咲かぬ森の盗人たち8p7人の盗人、長者、孫、山の地神
 おろろんぎつね8p青年ケイ、きつね、亡き妻の沙羅
 ジロー・メルペリウスの話8p青年ジロー、隣の爺と女性ハナ、地霊
 やまびこ太郎8p機織の少女、笛吹きの青年
 野いちご村の花絵師たち8p花の精の村の衆、人間の少女
 わすれんぼの天使8p青年、猫、管理人の女性
 赤い実 白い実8p熊の子、熊、ウサギや動物たち
 聖ゆきぼうし8p娘、母親、父親
 春のないしょ話8p少女の京ちゃんとヒロちゃん
 花かがり8p少年風太と少女モモ
 月の光を紡いで8p農家のゴロさん、月の子
 楓ッコ8p峠の茶店の少女、反物屋の青年
 赤いはさみと銀の鈴8p漁師サム、縫い物上手な女性ちどり
 羽衣てらんこ8p少女と両親、橋を立てる鬼、人柱の娘
※以上「ふるさとメルヘン(2)」から152p、ここまで合計 298p



 以上になる。今回、ゆっくり読むことで、真価が分かった作品が幾つもあった。

 1巻では、特に「こぐまの春」が、大変美しい話だった。鳥肌が立つようだ。絵もストーリーもキャラクターも。 特に24p〜25p、少女の繊細な表情の変化や、春の扉が開く美しい場面、その発想、そしてこぐまの言葉のリフレインまで、素晴らしい。 ラストシーンをどう捉えていいのか、私には分からなかったが。

 「西の風の歌」も、心にサーッと切ない風が吹くようなドラマだ。 こうした作品を描けるのが阿保さんの力だと思う。 「てのひら10月」、自然の描き方が素晴らしく、人にも話にも陰影と厚みを感じる。 「月うさぎ」もまた同じく。

 2巻は、最初の「かやぶき〜」から、心に響く上質な作品がつづく。 どこに出しても通じそうな、多彩でセンス溢れる作品群。 機織の少女の話を描いた「やまびこ太郎」が、「楓ッコ」に似た雰囲気の、 質的にも並ぶ秀作だと初めて分かった。 (タイトルで損してる?)

*    *    *

 さて、しかし、2巻の途中の「野いちご〜」あたりから、砂糖菓子のような甘いメルヘンになってくる。 端的な例は同作で、人間の里に返すべき少女を、戻さず曖昧な形で終わる。 それはそれで感じるものはあるが、 この辺りから、物語の途中は良くても、肝心の詰めが甘くなっていくように見える。

 以降、絵や会話は魅力的だし、ハッピーエンドのメルヘンではあるが、 鋭く人生の機微や真実を映し出す、という要素は減ってくる。 その後、「楓ッコ」「赤いはさみ〜」「羽衣〜」あたりで再びそれは戻るのだが、 これが最後の強い輝きだったのかもしれない。

 これもまた、今回読んでいて気づいたことだった。

*    *    *

 かくして、阿保さんの作品の価値を、様々に実感することになった。 やはり、アボサンの心がこもった作品は、今も衰えることなく、読むたびに、発見や、伝わってくるものがある。 そうして自分の中の珠玉作が増えていく。

 この選出作業は、そうした点でも、ファンの方にこそお勧めしたい。




2010-07-29
著者:ライラック


△ コーナートップへ戻る △
inserted by FC2 system