アボサンinfo

intro
阿保美代さんとは?
アボサンとわたし
 
contents
単行本リスト
作品リスト
          1977〜
陽だまりの風景
ふるさとメルヘン(1)
お陽さま色の絵本
          1981〜
時計草だより
ふるさとメルヘン(2)
くずの葉だより
          1987〜
ルフラン
夏のてじな
          1993〜
森のメルヘン
そよかぜの木
二人でつくる基本〜
 
thought
いろいろ思索
作品レビュー
 
refer
参考・関連リンク
弊サイトについて
 
 
いろいろ思索 〜阿保美代さんとその作品に〜   


 △ 《 阿保さんと作品に 》  △ 《 復刊・選集の夢 》 コーナーTOPへ△



「野ばら」と、「緑の木の葉」について   


 阿保さんの「緑の木の葉」という作品が、 童話作家・小川未明の「野ばら」からその設定を得ている、と知ったのは、最近のことだ。 無教養の私は、未明の名前すら知らず、早速、童話集を買って読んでみた。 中には幾つか聞いたことのある話もあった。

 さて、阿保作品には、詩や歌などは引用元が書いてあることが多いが、 本作に関しては単行本にその記述はない。 話の途中と最後が異なるので、これは設定や導入部を借りた、 オマージュ的な作品として受け取ればいいのだろうか。

 「野ばら」は1923年作。未明は、その後1961年に逝去。(著作権の保護期間は2011年の末日まで)。 阿保さんの「緑の木の葉」は1976年7月に、週刊少女フレンド増刊号向けに発表された。

*   *   *

 オリジナルの「野ばら」は、素晴らしい。文庫本でわずか4ページ半。 舞台はどこだろう。大陸のどこかの国境。石碑があり、野ばらが咲き、ミツバチが集う。 春の日の、うららかな風景、老人と若者の人柄、匂いや光まで立ちのぼる。

 対して阿保作品では、石碑や野バラはなく、木の柵と緑の葉で繁った木々が描かれる。 「野ばら」では、将棋を通して二人の性格が書かれるが、そのシーンもない。 やがて戦争が始まり、老人が首を差し出そうとするやり取りもない。 その代わり、阿保作品の若者は、兵士であるよりも、風に揺れる木の葉になりたい、と語る。

 そして終戦。「野ばら」の美しくも哀しいラストシーンはご存知だろう。 阿保作品では、夜、老人の家の戸が叩かれ、開くと、真っ暗な中に木の葉がザワっと舞う。 そのざわめきを見て、老人は何かを悟り、一筋の涙を流す。 ・・・というものになっている。

*   *   *

 両作品を比較した場合、当然のことながら、原作「野ばら」の深さに、阿保作品は及ばない。 やはり未明が心血を注いだ作品の、その一語一句に込められた力は大変なもので、 その設定を借りるだけでは、その核となるものまでは表現できないのだと思う。 戦争を体験した未明、戦後生まれの阿保さん、その差も大きいだろう。

 とは言え、私は阿保さんの「緑の木の葉」も好きだ。 絵も手馴れて上手く、情景も美しく、印象も良い。 宮沢賢治的な(?)「ひゃっぺん死んでも」のフレーズは唐突すぎるが、 話を自分なりにアレンジして、いい作品にしようという気持ちは伝わってくる。 私的には、原作そのままの漫画化も見たかったが、色々の関係で難しかったのだろうか。

 ちなみに、同童話集に「金の輪」という作品がある。 内容は異なるが、阿保さんの珠玉作「真夏に真綿の〜」は、 もしかしたら、これに閃きを得た部分もあったのかもしれない。



2010.07.06
著者:ライラック


△ コーナーTOPへ戻る △
inserted by FC2 system