阿保さんの「緑の木の葉」という作品が、
童話作家・小川未明の「野ばら」からその設定を得ている、と知ったのは、最近のことだ。
無教養の私は、未明の名前すら知らず、早速、童話集を買って読んでみた。
中には幾つか聞いたことのある話もあった。
さて、阿保作品には、詩や歌などは引用元が書いてあることが多いが、
本作に関しては単行本にその記述はない。
話の途中と最後が異なるので、これは設定や導入部を借りた、
オマージュ的な作品として受け取ればいいのだろうか。
「野ばら」は1923年作。未明は、その後1961年に逝去。(著作権の保護期間は2011年の末日まで)。
阿保さんの「緑の木の葉」は1976年7月に、週刊少女フレンド増刊号向けに発表された。
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オリジナルの「野ばら」は、素晴らしい。文庫本でわずか4ページ半。
舞台はどこだろう。大陸のどこかの国境。石碑があり、野ばらが咲き、ミツバチが集う。
春の日の、うららかな風景、老人と若者の人柄、匂いや光まで立ちのぼる。
対して阿保作品では、石碑や野バラはなく、木の柵と緑の葉で繁った木々が描かれる。
「野ばら」では、将棋を通して二人の性格が書かれるが、そのシーンもない。
やがて戦争が始まり、老人が首を差し出そうとするやり取りもない。
その代わり、阿保作品の若者は、兵士であるよりも、風に揺れる木の葉になりたい、と語る。
そして終戦。「野ばら」の美しくも哀しいラストシーンはご存知だろう。
阿保作品では、夜、老人の家の戸が叩かれ、開くと、真っ暗な中に木の葉がザワっと舞う。
そのざわめきを見て、老人は何かを悟り、一筋の涙を流す。
・・・というものになっている。
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両作品を比較した場合、当然のことながら、原作「野ばら」の深さに、阿保作品は及ばない。
やはり未明が心血を注いだ作品の、その一語一句に込められた力は大変なもので、
その設定を借りるだけでは、その核となるものまでは表現できないのだと思う。
戦争を体験した未明、戦後生まれの阿保さん、その差も大きいだろう。
とは言え、私は阿保さんの「緑の木の葉」も好きだ。
絵も手馴れて上手く、情景も美しく、印象も良い。
宮沢賢治的な(?)「ひゃっぺん死んでも」のフレーズは唐突すぎるが、
話を自分なりにアレンジして、いい作品にしようという気持ちは伝わってくる。
私的には、原作そのままの漫画化も見たかったが、色々の関係で難しかったのだろうか。
ちなみに、同童話集に「金の輪」という作品がある。
内容は異なるが、阿保さんの珠玉作「真夏に真綿の〜」は、
もしかしたら、これに閃きを得た部分もあったのかもしれない。
2010.07.06
著者:ライラック