阿保さんの上の世代に、24年組がいる。
萩尾さん、大島さん、山岸さん、彼女たちは雲の上の人たちだ。
作品のスケール、深み、表現力、どれも一級品。
デビューから40年、幅広いジャンルで、今も第一線近くで活躍しつづけている。
彼女達のデビューから4年ほど経って、阿保さんたちが出てくる。
この世代で、メルヘンという枠に限れば、阿保さんの上手さというのは際立つ。
もしかしたら、メルヘンファンタジー漫画というジャンルを開拓したのは、阿保さんではなかろうか。
少し遅れて大島さんの『綿の国星』が始まり、更に5年ほど経て、萩岩さんの『銀曜日〜』が出てくる。
どちらも可愛い絵で、長編の物語も秀逸で、このジャンルを代表する名作だ。
対して阿保さんの作品は、10ページにも満たない短篇ばかりだから、
印象が薄く、気が付きにくいが、70年代で他に代表できる人はいないだろう。
* * *
私がこのように考えたのは、つい最近のことで、それには理由がある。
まず、「アボサンとわたし」を書いて頂いた雪だるまさんが、実はそのようなことを仰っていたことだ。
確か、「私的には、日本漫画界の一ジャンルを形成したといってもよい(言いすぎ?)阿保美代の作品。」
とか何とか。私は流石にそれは言いすぎだと思い、
そこは保留しましょう、と言ってその部分を原稿には入れなかった。
その後のことだ。台湾のサイトを覗いていて、
阿保美代の「作者簡介」(簡単な紹介)を見ていたら、
「日本心霊漫画的始祖」とある。その前後にも様々な賛辞が踊っている。
台湾では、80年前後から日本の漫画というのは相当熱心に読まれているらしく、
その台湾でそう言われていることに妙な説得力を感じ、驚いたのだった。
「心霊漫画」の「心霊」というのが、どういう意味なのか分からないが、
「童心と霊性に溢れた」というような意味であるなら、阿保さんの漫画はまさにそうだ。
* * *
私は幾つか、同世代同ジャンルの他の方々の漫画も見たが、
阿保さんの洗練された絵や語り口を見た後では、どれも霞んで見えてしまう。
ある意味、誰も真似できない境地で、阿保さんは70年代半ばから黙々と、
メルヘンファンタジーのショートストーリーを描き続けていた。
その質の高さは、知る人ぞ知るものだろう。
私など、それに気づいたのは今年、2010年に入ってからだ。
「ふるさとメルヘン」の初版からもう30年経つ。その古本を、
よくよく落ち着いた心で、1ページ、1コマを、ゆっくり味わうように読んで初めて分かった。
全く古びていない、新鮮に心に響く。
阿保さん、あなたは凄い。
……私は今になって、初めて気づきました。涙が出てきます。
2010.06.26
著者:ライラック