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阿保美代・作品のレビュー 〜アボサンの繊細で大胆な世界〜


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パパンピプさん ようこそ  (単行本未収録 / 7p)   


 「パパンピプさん〜」は、 時計草だよりシリーズの一つ(その15)ですが、単行本には未収録なので、 ご存知ない方も多いでしょう。

 掲載されたのは、1980年の「週刊少女フレンド 第5号」。 今読もうとすると、この雑誌を手に入れるほかなく、それも困難です。 とはいえ作品内容も良く、 このまま埋もれさすのは勿体ないので、ここにご詳しくご紹介します。

 ただ、なにぶん30年以上前の雑誌で、紙質も印刷も粗く、 ヤケやシミ、カスレなども見られること、 あらかじめご了承ください。



引用:『週刊少女フレンド 1980年・第5号』 p.55 「パパンピプさん ようこそ」より (C)阿保美代 / 講談社
「パパンピプさん ようこそ」 p.1 下段より
(©阿保美代/講談社)


 冒頭、正面、街道の角に見えるのが、おかみさんの宿屋。 煉瓦造りの4階建てで、鳥の絵に「おやど」の文字の看板。 その前に一台の馬車が止まる。

 おかみさんが玄関の戸を開けると、小太りの初老の紳士が一人。 自分を偉大な、と言う、パパンピプ氏。重大な会議に行く途中、一晩泊まるのだという。 親切心なのか、偉そうな態度で、色々と言ってくる。



引用:『週刊少女フレンド 1980年・第5号』 p.55 「パパンピプさん ようこそ」より (C)阿保美代 / 講談社
下のコマ左端は、「ジレンマが おこるのは よく分かります」
(同 p.2 上段より)


 中に案内すると、内装にも次々ケチをつけはじめる。 壁、床、窓、明かりまで、「こうするべきです」と。 おかみさんが困惑していると、 「あなたのお気持ち、よく分かります」などと追い討ち。

 そして、お昼。宿では、お客さん全員が同じテーブルで食事するならわし。 そこでも氏は、客たち一人一人に、こうすべき、こうしなさい、と失礼なことを言う。 結局、みんな食事もそこそこに部屋に戻ってしまう。



引用:『週刊少女フレンド 1980年・第5号』 p.57 「パパンピプさん ようこそ」より (C)阿保美代 / 講談社
氏の失敬な言動に、ゲンナリして去る食堂の客たち。
(同 p.3 下段より)


 迷惑も省みず、彼は一人で食事を続け、「とても美味しい、どう作るのですか」と、 おかみさんを質問攻め。また、こうすべきと忠告。

 やがて夜の夕食時。他の客たちは、熱を出したといって出て来ない。 氏は一人、図々しく食事を終えると、めざとくキッチンにまで入ってきて、 「ひとつ機能的に片付けて差し上げてあげましょう」と、強引に変えてしまう。

 これには、おかみさんも、「長年の汗とほこりと涙の結晶が…」とショックを受ける。 さすがにこれで堪忍袋の緒が切れたか…



引用:『週刊少女フレンド 1980年・第5号』 p.59 「パパンピプさん ようこそ」より (C)阿保美代 / 講談社
(同 p.5より) ※画像クリックで拡大


 あくる日の夜明け前。一番鶏が鳴くや、 おかみさんは、「馬車の時間です」と言ってベッドで眠る氏を起こし、 外まで引っ張っていって、両手をあげて送り出す。「お元気で、胃大なパパンピプさん!」

 馬車を見送った彼女は、ほっと一息ついて微笑んで、 のんびりと、自分の好きなことに思いをはせる。 ひとつひとつ、振り返って、詩のように。



引用:『週刊少女フレンド 1980年・第5号』 p.60 「パパンピプさん ようこそ」より (C)阿保美代 / 講談社
左端は、「でも あたしは あたしが すきなものが すきなのよ」
(同 p.6 上段より)


 詩の下には、小高い丘を背景に、 中央にシンプルに、野の花を頭上に掲げた、おかみさんの姿が描かれる。 その周りを、額縁のような装飾が囲っている。

 それをよく見ると、りんごや魚、ランプ、花や花瓶、鳥や巣箱、食器、宿の道具、 毛糸玉や裁縫具、衣服などが連なっていて、 彼女の頭の中を巡っている、好きなもののよう。 これらが、その実感を、メルヘンチックに高めています。



引用:『週刊少女フレンド 1980年・第5号』 p.61 「パパンピプさん ようこそ」より (C)阿保美代 / 講談社
氏の「美味しい玉子焼きだ。帰りにもう一度寄らなくっちゃ」でFin.
(同 p.7 上段より) ※画像クリックで拡大


 そして彼女は、星の見える空の下、ゆっくり林道を散歩しながら、想う。 「もし私の癖を氏に話したら、こんなふうに言うのでしょうか」と。 透き通るような早朝の風景に、彼女の姿や言葉が溶け合って、情感は広がっていきます。

 ラストは、馬車の中のパパンピプ氏。 弁当の包みを開いて、ぱくっと食べながら、 「美味しい玉子焼きだこと。もう一度、あのお宿に行かなくっちゃ」と思うのでした。

*   *   *

 なんとも解放感のある作品です。 絵にも、空間的な広がりがあって、気持ちいい。 特に最後、肌寒い朝の、もやと草木の匂いと、澄んだ空気まで伝わってくる。

 そして、おかみさんが、氏の悪口や愚痴を一切言わないところがいい。 さっぱりと、自分の好みを想い起こして、私はそれが好き、と思う。 また、宿主として、氏を追い出した行動力もさすがでした。

 さらにそこでちゃんと朝弁当を持たせていることがいい。その心配り。 作中では、弁当を作ってるシーンはありません。 この描かれていないところの充実ぶり。 言葉で表現できないものが、洗練された形で入ってるんですよね。

*   *   *

 阿保先生のこうした作品が、ふたたび日の目を見る時は来るでしょうか。 私は来てほしいと願う。 ここには、センス溢れる描線と、光と霧と自然と、少しの人生哲学と、 優しさがいっぱい詰まっている。

 それは、強い感動を与えるほどのものではないかもしれないけど、 心にじんわり入ってきて、そうだよね、と、のびやかな気持ちにさせてくれる。 私はここに、阿保メルヘンの到達した境地を見る気もします。

 日本人だけではない、アジアや世界の人々にも読んでもらいたい作品です。





2011.08.20
著者:ライラック
illustration ©MIYO Abo 1980



□ 追記 ── アボメルヘンを構成するもの、氏のこと、未収録のこと


 本作中の、テーブルの上の食事。よく見ると、これが和食だったりするから面白い。 昼は、筑前煮と白米。あと皿にコロッケかな。ご飯のお櫃も置いてある。 ちなみに夜は、おでん。小さい絵なので、はっきり分からないですが。

 インテリアも、客間は、木の板張りで、ふかふかのベッドに柱時計。 長いソファーにクッション。 テーブルには花瓶と野の花。まさにアボサン風。 食堂の奥には暖炉があって、 キッチンの棚や壁にも様々な道具が掛かっている。

 本当に細かい所まで色々とあって、だから、ゆっくり見ると、より楽しい。 おかみさんの格好も。 当時のファンの方々は、これぞアボワールドと、細部まで見て受け取っていたのかな。 それで、アボサンも感性豊かに描いたとか。

*   *   *

 さて、本作に出てくるパパンピプ氏ですが、言うことには一理あるんです。 だけど、相手への配慮に欠けていて、尊大で、自覚がない。 特に、"旅の歌うたい"に対して、 「顔を変えるべき、でなきゃ職業を変えるべき」は、 明らかに言い過ぎです。

 ただ、こうしたことは、誰の身にも覚えがあるのではないでしょうか。 いわゆる「小さい親切、大きなお世話」のような。 私は、したことも、されたことも。 その結果、人それぞれ好みが違うことを学んできたのでした。

 当時、阿保先生ご自身の周りに、氏のような方がいたのかもしれませんね。 それを、作品の中で、ユーモアたっぷりに戯画化して、 先生はおかみさんの姿を借りて、メルヘンの中で、 その思いの丈を語られたのかもしれません。

*   *   *

 単行本『時計草だより』には、 宿屋のおかみさんが主役のものに、「かげぼうし」があります。 絵もストーリーも魅力的で、あの先生も登場するし、必見の作品でしょう。

 とはいえ、この「パパンピプさん〜」も同じ水準にあると思うので、 これが未収録なのは、本当に勿体ないと思う。 そもそも、こんな高いセンスのメルヘン作品を描ける漫画家って、どれほどいるんだろう。 私はよく知らない。

 高野文子さんは凄いけど、アボサンの絵とはまた違うし、 メルヘンでもないので、違う系統なんですよね。 結局、大島弓子さんになってしまう。奈知未佐子さんも話は良いけど、 絵のスケール感に差がある。

*   *   *

 話を戻して、漫画の単行本は、たいてい一冊あたり200ページ程のようなので、 『時計草だより』を1冊にまとめる時、 編集者さんも選考に苦労されたのかもしれません。言い換えれば、 それだけこの時期の阿保さんは充実していたわけです。

 しかし、別の収録方法はなかったのか。 『時計草だより』を2巻立てにするなり、どこかで全集を出すなり。 本作を読むたびに、そう考えてしまう。 そして次第に、怒りというか、悲しみがこみあげてくる。

 こうした、絵でもオリジナリティでも高い水準にある、 '80年前後の阿保作品が、このまま埋もれていくとしたら、とても悲しい。 そうなってはいけない、と私は思う。




2011.08.20
著者:ライラック
illustration ©MIYO Abo 1980

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