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阿保美代・作品のレビュー 〜アボサンの繊細で大胆な世界〜


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わすれんぼの天使  (「ふるさとメルヘン2」より)   


 私の大好きな作品。胸がキュンとする。そして全体が明るい。 このキャラクターの絵も、すごく可愛い。

 絵も話も、シンプル。 何かすごい描き込みがあるとか、派手なシーンがあるとか、そういったものはない。 でも、隅々まで阿保さんのセンスが発揮されている。

 主人公は、町工場で働く男の人。 最近なんだか、物忘れをしたような気分。 通勤電車でも、会社でも、何だかしっくりこない。



引用:『アボサンのふるさとメルヘン(2)』 p.83 「わすれんぼの天使」より (C)阿保美代 / 講談社
「わすれんぼの天使」 p.1より
(©阿保美代/講談社)


 彼が住んでいるアパートには、一匹の猫がいた。 大家さんには飼うのは禁止されてるんだけど、 勝手に来るんだし、彼もその猫が気に入っていて、一緒に暮らしていた。

 だって、その猫の仕草は、亡くなった妹に似ていたのです。 はにかんだ笑顔とか、からかうと怒って背中を向けるところとか…。

 私の胸がキュッとなるのは、次のシーン。 窓辺でたたずむ猫、そこに、雨ふる庭先を見る妹の後姿が重ねられる。 そして、水の上に浮かぶ麦わら帽子。 素朴だけど情感があって、いいんですよね。



引用:『アボサンのふるさとメルヘン(2)』 p.86 「わすれんぼの天使」より (C)阿保美代 / 講談社
「わすれんぼの天使」 p.4より
(©阿保美代/講談社)


 やがて七夕が近づく。 綺麗な星空の夜、彼が寝ていると、枕元で、「ぱくぱく」という不思議な音がする。 目をこすって起きると、猫が、彼の頭からこぼれる、星状の夢を食べていた。 猫は、好きな人の夢を食べる青猫だったのだ。

 そして、とても可愛いと思うのが、次のページ。 それがバレた猫が、冷や汗をかき、両手を口元に当て、「見られちゃった」と。 その気持ちに合わせるように、カメラがグイーッと引いて、ここが無茶可愛い。 やがて「もう いられない」と飛び去っていく。



引用:『アボサンのふるさとメルヘン(2)』 p.88 「わすれんぼの天使」より (C)阿保美代 / 講談社
「わすれんぼの天使」 p.6より
(©阿保美代/講談社)


 この日から猫は居なくなり、 主人公は、もの忘れの感じもなくなって、いつもの日常に戻るのでした。 大家さんも、あの猫、近ごろ見ないねー、可愛かったけどねェーと、気にかけていたりして。

 そして彼は、忘れていたことを、少しずつ思い出していく。 日の光のまろやかさ。あの大家の子が、よく笑うってこと、その可愛い笑顔。 彼は恋心があったのかな。 ここら辺のところは、私には分からないんだけど。



引用:『アボサンのふるさとメルヘン(2)』 p.90 「わすれんぼの天使」より (C)阿保美代 / 講談社
「わすれんぼの天使」 p.8より
(©阿保美代/講談社)


 全体的に、力がすっと抜けている感じもいい。軽くて、爽やか。 パースを崩した街並みもいいし、アボサンの繊細さも隅々まで行き届いている。 コマ使いも自在で、広がりがあり、そこに言葉が優しく融け込む。

 1980年、阿保さん全盛期の、素朴な小品。私にとっては大好きな佳品。 阿保さん…、こんな素敵な作品を残してくれた。 心から、ありがとうと言いたい。





2011.08.12
著者:ライラック
illustration ©MIYO Abo 1980



□ 追記 ── "ふるさと"と"だより"の境界と、クレー他


 本作はどちらかといえば、「ふるさとメルヘン」というより、 「時計草だより」に近い気もします。 '80年以降、阿保さんは、その境界をあまり意識しなくなったのか、 徐々に曖昧になり、逆の例も見られるようになります。

 私のイメージでは、ヨーロッパ調が「〜だより」(7p)で、 日本民話調が「ふるさと〜」(8p)です。 本作では、洒落た石畳の町並みはまさにヨーロッパ風ですが、 舞台は日本のようで、 途中、七夕が出てきたり、妹の回想シーンには障子が見えます。

 作中の、アパートの大家さんであろう、元気な女の子は、 まるで若い頃の、宿屋のおかみさん(by「時計草だより」シリーズ)を見るようでした。


引用:『アボサンのふるさとメルヘン(2)』 p.85 「わすれんぼの天使」より (C)阿保美代 / 講談社       引用:『アボサンのふるさとメルヘン(2)』 p.85 「わすれんぼの天使」より (C)阿保美代 / 講談社
大家さんの女の子と町並み 〜「わすれんぼの天使」 p.3より
(©阿保美代/講談社)


 あと、作中に、好きな人の夢を食べる「青猫」という表現が出てきますが、 私は初めて聞く言葉でした。 詩人の萩原朔太郎が、そんな題の詩を書いていると知って、 読んでみましたが、似たような部分は見つからず、分からず。

 もう一つ。このタイトルから、 パウル=クレーの「忘れっぽい天使」を想起される方もおられるでしょう。 あの幼児の落書きのような線描画です。本作の、この純朴な可愛さ、明るさは、 それにインスパイアされた部分があったのかもしれません。




2011.08.12
著者:ライラック
illustration ©MIYO Abo 1980

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