初の単行本。大半はヨーロッパ風の舞台で、全体的に切ない話が多い。
黒い背景の大ゴマもよく出てくる。
絵のタッチ、家や街並み、樹木、空、キャラクターの描き方まで意外に多彩。
後にお馴染みとなる駅員さんも3篇に登場。
「ある村の詩」(全4篇)は、母親を亡くした子供(パウル)の話、ほか、子猫と男の子の、傘が好きな男の子の話。
少女と祖母の素敵な「ねがいごと」。人の悪夢を食べる「バクのゆめ」の真実。
「小さな駅にて」は、馬車を待つ駅長さんが少し眠くなって、哲学的な夢想にふける、阿保流ポエジー。
「小さな二重唱」は、大きなカシの木と、そこへ休みに来たすずめの話。
ざわざわ、チュンチュン、そこへ嵐がやってきて・・・。
「10月の笛」は、春の草笛の明るい記憶と、秋の悲しみの詩。台湾ではこれが本のタイトルに。
「いちごパイの夜」は、ほんわか心温まるノスタルジックなお話。
20ページ超の長編(阿保さん的に)、「トクトクトク」は、男女の人形の愛の行方を描く。
設定や絵や詩、ラストシーンに才気が漂う。
戦時下の愛の日々を描く「とても美しい小さな朝」、パリを舞台にした一本の短編映画のような美しさ。
その後の16ページの中篇2作も、陰影のあるストーリーで、何とも言えない余韻を残す。
阿保美代という漫画家が、豊かな感性と表現力を備えた、オリジナリティをもちうる作家であることを、
さらりと感じさせる一冊。
(by ライラック)
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